研究内容

バクテリアは進化が速く、同じ種でも株の間で病原性などの形質が大きく異なる場合がある。そうした近縁株同士の形質に違いを生じるメカニズムを明らかにするため、近縁株間のゲノム、エピゲノムの比較解析を行っている。得られた知見を応用し、公衆衛生の向上に貢献することを目指している。

1. ゲノム再編メカニズム

ゲノムの多様化は主に点変異の蓄積によって起こるが、長い塩基配列の挿入/欠失や逆位、置換、転移、あるいは遺伝子重複といった大規模なゲノム再編もゲノム構造を大きく変化させ、生物進化に大きく寄与している。ヒトの胃に感染するピロリ菌は、分離された地域ごとにゲノムが多様化していることが知られている。日本人患者由来のピロリ菌のゲノムを解読し、ゲノム配列を比較し、ゲノム再編とピロリ菌の進化との相関について解析を行った (Kawai et al, BMC Microbiology, 2011)。また、ゲノムの逆位を伴う、新しい遺伝子重複メカニズムを発見した (Furuta et al, PNAS, 2011)。

2. バクテリアのエピゲノム

ゲノム上のDNAのメチル化による遺伝子発現制御は、原核生物と真核生物いずれにおいても起こることが知られている。原核生物のDNAメチル化修飾は4塩基以上の標的配列を持つDNAメチル化酵素によってなされる。ピロリ菌はゲノム上に多くのDNAメチル化を持ち、そのレパートリーが多様であることからゲノムのメチル化状態(メチローム)が多様であることが情報解析から推測され、実際にメチロームシークエンシングを行うことでこのことを実証した (Furuta et al, PLoS ONE, 2011; Furuta et al, PLoS Genetics, 2014)。